●私は聖書を読まずに興味本位で一神教を理解しようとする異教徒ですが、本書は分かり易くて参考になりました。●序文の『イエスの死後300年間、聖書が存在しなかった』という記述に対し『既に福音書とかはあっただろう』と思ったら、本書はイエスの死後、山の様に乱発された文書の中から27本が正典に選ばれるまでの、キリスト教会の諸事情を説明したモノでした。●信者の増加に伴い神学的意見の対立と組織の分裂が繰り返されるさまは、学術的解説書としてより<読み物>として面白い一冊です。●しかし生前のイエスを知らない書記者に改変された27文書の中に『本当のイエスの言動』がどれだけ残っているのか、異教徒ながらに心配になります。 ●本書では<権威>という単語が頻発します。その語感と相まっていささか不快ですが<権威>は新約に74回も出る<邦訳聖書用語>なので、学者が勝手に改訳する事は出来ません。全くどんだけ<権威>が好きなんだ、キリスト教者は。異教徒は戸惑うばかりです。
●とにかく面白い。 ●イエスとその仲間達は首都エルサレムから離れた田舎の生まれで生まれアラム語を話す。イエスの宗教はユダヤ教の主流派が見捨てた<下層>の人々を救おうとする。●しかしイエスの死後、生前のイエスを知らない人が入信する。ユダヤ国外(属州外)に住み、ギリシャ語を話し、都会的でユダヤの戒律にあまり縛られない人(ヘレニスト)が入信する。そしてついには非ユダヤ人が入信する。●結果、生前のイエスを知り、ユダヤの戒律に従い、アラム語を話し、読み書きが出来ない第一世代が『キリスト教主流派』となり、イエス自身も想定しなかったであろう人達が入信するたびに衝突する。例えば律法によりユダヤ人は非ユダヤ人と食事が出来ない。でも非ユダヤ人が入信してきた。さあ、どうする?、どうなる? あぁ、トラブルが起きるぞ! 起きるぞ! とワクワクしながら読み進むと、やっぱり分裂する。●そしてユダヤ戦争に負けてエルサレムに済む他のユダヤ人共々主流派が粛清されると、ヘレニストによる都会的・ギリシャ的な教義への改変に歯止めがかからなくなる。●世界的な宗教の解説書であるはずだが、異教徒には全く面白い読み物である。著者は分かって書いてるのではないかと思うほど、面白い読み物になっている。
●とにかく分かり易い。 ●イエスの宗教誕生の背景となる紀元前後のユダヤ人の状況解説から始まる為、聖書を読まない異教徒には助かった。●ユダヤ人がユダヤ王国崩壊から数百年経ってもアイデンティティを保ち続け、その人口がローマの10%だった事にも驚いた。ファリサイ派、サドカイ派等、どこかで聞いた事がある言葉の説明も本書の理解の助けとなった。
●異教徒が戸惑うところ ●<邦訳聖書>は訳語のセンスが悪く、学者・研究者もこれにならわざるを得ない。本書で異教徒が戸惑った言葉は<義><義人><義である> と <権威>であった。
●<義>は普段見ない使い方がされて戸惑ったが、一か所<義し>と送りがながあり、辞書を引いて<正しい><善き>程度の意と理解した。
●<権威>は<邦訳聖書用語>でした ●<権威>は本書のキーワードである。最も<権威>があるのは『イエスが語った』とされる言葉、次に『使徒が語った言葉』、『使徒が書いたとされる文書』等々。●異教徒がキリスト教入信を決める判断基準は、宣教者が示す教義の<権威>である。また信者、共同体が自ら信じる文書を選択する基準も<権威>である。キリスト教者が自説を主張する手段は文書化であり、乱立する諸文書に埋もれず生き残る手段は<権威付け>による自書の正当化・格付けである。●だが<権威>という日本語は露骨で語感も悪く、本文中これが頻発する事に辟易した。●しかし<権威>は<邦訳聖書用語>であった。別書でイエスが山の上で『権威ある者の様に教えた』とあったので『聖書を読まない』という信義を捨ててネットで調べると、新約の中に<権威>が74個もあった。3行で4回、7行で5回出るところさえある。どれだけ<権威>が好きなんだ、キリスト者は。●聖書はキリスト教者のモノだから研究者は勝手に改訳出来ないので、本書は<権威>という単語があふれる。仕方ないよね。でも何だかなぁ。
●本書は、新約の4福音でさえ書記者が自身の神学的解釈を主張する為に以前の口承・文書を改変したが故に互いに齟齬がある事を著す。下って2,3世紀には教義の改変が進み諸文書が乱立した為に<正典>の確立が必要となり、<新約聖書>が成立した過程を記す。●だからマルコとマタイの<相違点>は検証の対象となるが、<共通点>は問題にならない。故に二者の<共通点>で仮定される<Q文書>への言及は無い。いっそ潔い。
●神学上の問題 ●『信じる者は救われる』の句は、イエスの時代には正しくないとある。神が、信じる者を救い信じない者を救わないなら、『人は信じる事により、神に救わせる』事であり『人が神を従わせる』事になるという。かなり強引な話であり、説明も充分ではない。しかし私は本著者の『一神教の誕生』を読んでいたので比較的容易に受け入れられた。(この件で著者が同じである事に初めて気付いた)。●『一神教の誕生』は一神教誕生の歴史解説書ではなく、『一神教であるところのユダヤ教の、神学的解釈・神学的変遷史の解説書』で、『神にご利益を祈る事は、人が神を使役する事』になるというユダヤ人の理屈をかなり丁寧に説明されている。当時、異教徒にはかなり突飛な考え方にしか見えなかったが、本書の文脈でこの神学的解釈を見るととても説得力がある。●本書だけを読んでこの件に違和感を持たれた方には『一神教の誕生』をお勧めする。
●後書きを読むと本著者が相当な1次・2次文献に通じている事が伺われる。IT技術の発展により、1、2次資料へのアクセスが容易になった事、また自宅の紙媒体が減って子供部屋の床が見えるようになった事などがほほえましく紹介されています。
●最後に、ローマが国の管理に試行錯誤し、帝政、ギリシャ哲学、キリスト教を含むオリエントの諸宗教等に基づく支配を行ったが長続きせず、4世紀に再びキリスト教を採用したらこれがうまくいったので国教化したという話が、最も有益な情報であった。ローマにしてみれば、安定支配が長続きするなら<ダメな宗教>でも利用するという方針だったそうで、ローマ人の合理的思考に感心した。
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『新約聖書』の誕生 (講談社選書メチエ 163) 単行本 – 1999/8/10
加藤 隆
(著)
イエス没後、『新約』成立までなぜ300年も要したか。まぜ相矛盾する四福音書が存在するのか。「異端」活動の果実を巧みに取り入れた「キリスト教主流派」が、聖なる「テキスト共同体」を創り出すまでを描く。
- 本の長さ286ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日1999/8/10
- ISBN-104062581639
- ISBN-13978-4062581639
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
イエス没後「新約」成立までなぜ300年も要したのか。なぜ相矛盾する四福音書が存在するのか。異端活動の果実を巧みに取り入れた「キリスト教主流派」が、聖なる「テキスト共同体」を創り出すまでを描く。
著者について
1957年神奈川県生まれ。東京大学文学部卒業後、ストラスブール大学プロテスタント神学部博士課程修了。神学博士。現在、千葉大学文学部及び同大学院文学研究科・社会文化科学研究科助教授。主な著書に、『新約聖書はなぜギリシア語で書かれたか』((大修館書店、1999年)、訳書に、E・トロクメ『キリスト教の揺籃期』(新教出版社、1998年)などがある。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (1999/8/10)
- 発売日 : 1999/8/10
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 286ページ
- ISBN-10 : 4062581639
- ISBN-13 : 978-4062581639
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,099,792位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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イメージ付きのレビュー
2 星
信頼できる史料ベースの解説書ではなかった
新約聖書がどのように成立したのかを、純粋に信頼できる史料ベースで説明する内容かと思いきや、基本的には福音書の内容を中心に成立過程を想像しているようなものだった。僕の期待がそもそも間違っていたのかな。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2019年8月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2017年8月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
まとまっていて、よくわかる。もう少しつっこんで記述されてもよかったのでは。
2022年1月16日に日本でレビュー済み
『旧約聖書』とは一線を画した『新約聖書』ができあがるまでに、様々な展開が、紆余曲折があったことを学んだ。イエスがなくなってから、三世紀半以上経過して、正典が確定したのだ。そんな過程を述べるなかで、著者は、ときには細部にまで分け入って、独特の論理を展開したり、独自の感想を述べたりしている、そんな記述も面白かった。
あとがきで著者は、「新約聖書の成立について歴史的叙述を試みることは、たいへんに困難である」と述べているが、それを著者はこの本で試みた。そして、いかに困難であろうとも、それでもやってみないことには一歩前に進めないのだと、書き加えている。
あとがきで著者は、「新約聖書の成立について歴史的叙述を試みることは、たいへんに困難である」と述べているが、それを著者はこの本で試みた。そして、いかに困難であろうとも、それでもやってみないことには一歩前に進めないのだと、書き加えている。
2016年11月23日に日本でレビュー済み
イエスの活動から始まって、新約聖書が今あるかたちとなるまでの原始キリスト教の姿を通史的に説いた学術書です。新書・文庫本の類でこういったテーマを扱った書籍自体が稀なので新約聖書や初期キリスト教に興味をお持ちの方には一読の価値があると思います。
但し初期キリスト教や新約聖書についての専門的な概念や人物などがバンバン扱われているので予備知識がないままいきなり本書に当たられると読み進められなく可能性大です。少なくとも新約聖書を通読したことがあり、初期キリスト教についても多少の知識がある方なら興味深く読み進められると思います。
著者は各種の資料から様々な検討を行っており、読めば自分なりの考えを深めることができます。但し難点としては、
①この時代は明確な資料として残されたものがほとんどなく、「…とおもわれる」「…と考えてよいだろう」といった推測に推測を重ねた議論が多く、決定的な説得力に欠ける点が多いこと。
②四福音書の成立については定説といってよいものがあるにもかかかわらず全く触れていないこと、特にQ資料の存在について言及がない点についてはどうかと思いました。
③テーマのつっ込み方に濃淡があり、箇所によっては冗長になりすぎてくどい感じがすること。
といったところでしょうか。
いずれにせよこの種のテーマを扱った書籍は希少であり興味ある方は一読されれば自分なりの考えを深められるのではないでしょうか。
但し初期キリスト教や新約聖書についての専門的な概念や人物などがバンバン扱われているので予備知識がないままいきなり本書に当たられると読み進められなく可能性大です。少なくとも新約聖書を通読したことがあり、初期キリスト教についても多少の知識がある方なら興味深く読み進められると思います。
著者は各種の資料から様々な検討を行っており、読めば自分なりの考えを深めることができます。但し難点としては、
①この時代は明確な資料として残されたものがほとんどなく、「…とおもわれる」「…と考えてよいだろう」といった推測に推測を重ねた議論が多く、決定的な説得力に欠ける点が多いこと。
②四福音書の成立については定説といってよいものがあるにもかかかわらず全く触れていないこと、特にQ資料の存在について言及がない点についてはどうかと思いました。
③テーマのつっ込み方に濃淡があり、箇所によっては冗長になりすぎてくどい感じがすること。
といったところでしょうか。
いずれにせよこの種のテーマを扱った書籍は希少であり興味ある方は一読されれば自分なりの考えを深められるのではないでしょうか。
2013年12月15日に日本でレビュー済み
本書の刊行時期は1999年にさかのぼるが内容は決して古くはない。学説はいろいろ出てきて学会では論議があるのかもしれないが、概説書としては色あせていないと思われる。改めて読み直してみて新しく興味深い視点をいろいろ教えられた。キリスト教は、当たり前の話であるがユダヤ教から生まれた。厳密に云えばユダヤ教のメシヤ願望思想から生まれた。メシア思想は後期ユダヤ教の預言書であるダニエル書ほか、さかのぼればエゼキエル書前後に淵源を持つ。ゾロアスター教の影響もある。バビロン捕囚が神の計画であると受容できれば、救済も神の計画としてメシヤを世に派遣したと考えることができる。そのような思考パターンのなかで、メシヤの到来(=神の国の近接)、メシヤの死と復活、再臨などの教義が流布する時代的な雰囲気が生じた。イエスがメシアに擬せられて新しい改革運動が生まれた。新約聖書の教義自体はバビロン捕囚とペルシャ支配を経たあとに成立した後期ユダヤ教の時代にほとんどすべてが準備されていたことがイエス誕生の要因であったと理解することができる。新約の筋書き、宣教する際の言辞など、大抵は旧約の中に見出すことができる。エレサレム陥落はイエスの処刑と類比できるし、その際の有名な「神よなぜ我を見捨てたまうや」というフレーズも神の不介入に抗議する預言者の言葉として、詩編や預言書のあちらこちらに散りばめられている台詞である。
新約がなぜ誕生したか。律法遵守や神殿崇拝という体制では時代が要請する課題、神と人間との疎隔するという罪の問題に対応しきれないからである。それに代わるメシアの到来が真剣に求められてきた時代にイエスが登場してきたのである。教会で説かれる既成のキリスト教からはなかなか分からない神と人間との関係について眼を開かされる思いがする。
新約がなぜ誕生したか。律法遵守や神殿崇拝という体制では時代が要請する課題、神と人間との疎隔するという罪の問題に対応しきれないからである。それに代わるメシアの到来が真剣に求められてきた時代にイエスが登場してきたのである。教会で説かれる既成のキリスト教からはなかなか分からない神と人間との関係について眼を開かされる思いがする。
2020年11月2日に日本でレビュー済み
キリスト教徒でない者にとって、複雑怪奇な「新約聖書」の
歴史を、大部でない本書は要領よくまとめています。
文庫本=352頁。元本講談社選書メチエ=286頁。
他の方のレビューで、有名な「Q資料」の記載がないと
指摘されていますが、現物がない仮説にすぎないので、
一般読者には必要ないと考えて省略したのか、あるいは
著者自身が「Q資料」に疑問を持っているのでしょう。
- エピローグ 新約聖書を「読む」ということ -
の中で「文字は殺す」という項目を立て、
新約聖書は書かれたものだが、書かれていることだけでは
不十分であり、書かれていること自体に重大な不都合があると
宣言されているのである。新約聖書自体は、新約聖書がこえ
られることを読者に求めているのではないだろうか。
に続いて
新約聖書は、新約聖書に書かれている文字によって殺される面を
超えて「生きる」ということのための読書のあり方を読者に示す
という機能を担っているかもしれないのである。
と書いています。非常に説明不足な文章であり、「聖書は人を殺す」
と早合点する人がいないとも限りません。
(注)著者自身が勘違いしているかも
聖書に親しんでもらうつもりが、逆に聖書から一層遠ざけることに
なる恐れがあります。「新約聖書の誕生」という主題にとって蛇足
ではないでしょうか。
歴史を、大部でない本書は要領よくまとめています。
文庫本=352頁。元本講談社選書メチエ=286頁。
他の方のレビューで、有名な「Q資料」の記載がないと
指摘されていますが、現物がない仮説にすぎないので、
一般読者には必要ないと考えて省略したのか、あるいは
著者自身が「Q資料」に疑問を持っているのでしょう。
- エピローグ 新約聖書を「読む」ということ -
の中で「文字は殺す」という項目を立て、
新約聖書は書かれたものだが、書かれていることだけでは
不十分であり、書かれていること自体に重大な不都合があると
宣言されているのである。新約聖書自体は、新約聖書がこえ
られることを読者に求めているのではないだろうか。
に続いて
新約聖書は、新約聖書に書かれている文字によって殺される面を
超えて「生きる」ということのための読書のあり方を読者に示す
という機能を担っているかもしれないのである。
と書いています。非常に説明不足な文章であり、「聖書は人を殺す」
と早合点する人がいないとも限りません。
(注)著者自身が勘違いしているかも
聖書に親しんでもらうつもりが、逆に聖書から一層遠ざけることに
なる恐れがあります。「新約聖書の誕生」という主題にとって蛇足
ではないでしょうか。